大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和44年(あ)256号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人長井清水の上告趣意第一点は、単なる法令違反の主張であり、同第二点は、事実誤認の主張であって、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない(なお、記録によれば、被告人がバスを下車した被害者の姿を衝突の直前まで発見していなかったことが認められるし、また、幼児のとび出しを予見しうべき具体的状況が存在したことを認めるに足りる証拠もないのであるから、原審が、被害者が四才の幼児であることを理由にして、信頼の原則の適用を否定したのは、正当ではない。しかし、記録によれば、本件事故現場付近の道路および交通の状況からみて、バスを下車した人がその直後において道路を横断しようとすることがありうるのを予見することが、客観的にみて、不可能ではなかったものと認められるのであるから、かりに、被告人が右のような交通秩序に従わない者はいないであろうという信頼をもっていたとしても、その信頼は、右の具体的交通事情からみて、客観的に相当であるとはいえないというべきである。したがって、本件において信頼の原則の適用を否定した原判断は、その結論において、相当であるといわなければならない。)。

また、記録を調べても、同法四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 下村三郎 裁判官 田中二郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美 裁判官 関根小郷)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例